『オール電化』

 電球 電灯 電柱 電線
 電気がなければ生きてはゆけない
 電虫 電獣 電鳥 電人
 電気でなければ生きものではない



『罪びときたりて』

 ぼわんと暗い
 影の方へ
 奥へ、奥へと
 とたとたすすむ
 ぼんやり、突きあたった
 影のところに
 すわる仏の顔を、見る

 日に焼けることのない、仏の顔を
 じうじう見ている
 日の光にはさらされず
 けれども人の目には延々と
 さらされつづける仏の顔を
 じうじう、ながめている

 まぶしさに責められる
 ことなど、ないのに
 ばん!
 と、ひらかれることもない
 まぶたの、奥から
 ホイップクリームにも似た
 やわやわとした思惑が
 したたり、したたり
 落ちている

 日の当たらない
 影のなかへ
 長い年月しばりつけ
 なかば弛んだ
 信仰の目で
 じうじう、じうじう
 やっている
 おれたちの、思惑なんだ
 ほんとうは
 さんざっぱら、仏の顔に
 ぬったくった挙句に、
 しみったれて落ちる
 おれたちの、思惑なんだ

 だからだよ

 いくらでも、
 いつまででも、
 ほうりこんで、
 なすりつけて、
 かなぐりすてて、
 しまえるように、
 仏という、器を
 執着のない、器を
 無心にこさえる、その執着を

 情熱を
 おれは見たいんだ




『不死身の譜(あるいは、詩)』

 不死身には、いろいろある。
 生のかたちが、ひとつではないように、
 死のかたちが、ひとつではないように、
 不死身にも、いろいろあるのだ。
 たとえば、
 死なないこと。と、
 死がないこと。との、
 間には、
 鮃と鰈ほどの、あるいは、
 蛾と蝶ほどの、ひらきよりも、
 もうすこし広い、ひらきがある。
 死なないこと。と、
 死がないこと。との、
 間に広がる、
 いく通りかの、バリエーション
 (それは、湿度と言い換えてもいいかしれない)
 に、
 わたしたちは、物語を、
 ひたひたと見出すのだ。
 事実としては、
 生も、
 死も、
 そして、
 不死身も、
 単一のものとして横たわるが、
 目をこらし、
 よくよく見れば、
 けっしてひとつではないことを、
 わたしたちは知っている。
 知らないふり、
 あるいは忘れたふり、
 あるいは考えないふりで、
 生まれて、育って、老いて、死ぬ、
 その過程のどこかの時期に、
 まったく道を踏み外す
 (すなわち不死身の道へとわけ入る)
 その年表のみで流そうとしたって、
 あちらさんが、
 見逃してはくれない。
 流そうたって、
 なにしろ年表も、
 お終いを失っているから、
 とうとう観念せざるをえないのだ。
 ですから、
 わたしたちは、
 それぞれにある、
 物語に目をこらす。
 一見むなしく見えるその不死身にも、
 ユーモアのモが弓をひいていたり、
 一見かがやしく見えるあの不死身にも、
 神経衰弱のJが剣をふるっていたりする。
 わたしたちは、
 不死身それぞれの味わいを、
 たしかに知っている。
 ですから
 (再度申します)
 ですから、
 わたしたちは、
 それぞれに、
 不死身でもあるのです。
 きっといろいろに、
 不死身の道へとわけ入る、
 不死身の身です。
 でなければ、
 なぜに物語が、
 存在するというのだろう?




『完璧な男の子』

 小鳥のような服を着ている
 兎のような、男の子だ
 わらうことなく
 なくことはなく
 ぽんぽんぽん、と想っている
 世界とはなんて完璧なんだろう
 必要なものと必要のないものがあって
 うつくしいものとみにくいものがあって
 たのしいこととくるしいことと
 まっすぐな線とゆがんだ線と
 あかるい色とくらい色と
 もっともらしい言葉もうさんくさい歌も
 勇み足の良心もおくびょうな悪意も
 生きたいも死にたいも
 念仏も呪詛も石けんも血しぶきもあって
 まるでぼくとおんなじに、
 なんて完璧なんだろう、
 と男の子は
 ぽんぽんぽん、と想っている
 たとえばどこかの殺し屋が
 男の子の頭を撃ちぬいたとして
 飛びちる脳のかけらにも
 ぽんぽんぽん、と詰められた
 完璧な世界は
 まるで完璧なすがたのままで
 ころがっているだろう
 小鳥のような服も
 砂にまみれても小鳥のように
 兎のような男の子も
 こときれても兎のように
 わらうことなく
 なくことはなく
 ぽんぽんぽん、と
 ぽんぽんぽん、と
 ぽんぽんぽん、
 と。
 


『明日の猫へ』

 目隠しを解かれると、眼前には、狸と狐と猫の姿があった。
「クリスマスキャロルをご存知か」
 背後から、俺を拉致した奴とおなじ声がする。
 確か子どもの頃に読んだおぼえがある。大富豪の前に三人の幽霊が現れる話だったか。この三匹が、それにあたるとでもいうのか。
 ふり返ってみると、そこにはずいぶん大きな口をした猿が立っていた。
「なんだ、豚ではないのか」
「残念ながらちがう。悪いね」
 そう言って猿は大きな口で笑う。
「俺も富豪とはちがうよ」
「だが、悪党だ」
「ちがいないな」
「そんな虫けらにも、運命をえらび取る自由はあるものだ」
 両手の縄を解かれる。
「さて、えらべるのは一匹のみだ。狸を生きるも、狐を生きるも──」
「猫」
 猿の言葉を待つ気はなかった。答えはもう決まっている。俺は猫を抱きあげた。
「さすがは大物だな。では、健闘を祈るよ。クライド」
 嫌味のように言い残し、猿は消えた。腕の中で、みあおと猫──ボニーが鳴く。  



『アイ・ノウ』

 雨は、だれでも知っている。
 アメニアラズは、だれも知らない。
 夕立にまぎれ、またしても屋根の上、車の上、紫陽花の上、傘の上でアメニアラズはさびしいあまりのタップダンスを踊っている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・自由題部門投稿作


『エレベーターの恋』

「バイバイ、またね」そういって、三角形は蝶になって外へと飛び去った。置いてきぼりの四角形は、再会の言葉を信じて口を開けて待っている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・自由題部門投稿作


『FOOL’S GOLD』

 高い高いタワーから、一枚のコインが落ちる。

 一人の娘がゴミ山を物色していた。折れ曲がったパイプであちこちかき回すが、めぼしいものはなかなか見つからない。ひと息つこうと首をもちあげた時、ゴツンとひたいに何かが強くぶつかった。
 娘は思わずうずくまった。ひたいに当てた手をそっと見ると血がついている。その手の向こうで何かが光った。足下にコインが転がっている。やっといいものが見つかったと娘は喜び、血のついた手でコインを拾う。
 見たことのないコインだった。片面には龍が、もう片面には鎖と文字が彫られている。陽にかざせばキラキラとまぶしいくらいに輝くので、きっと値うちものに違いないとコインを尻のポケットに押し込んだ。
 再び娘はゴミ山を物色し始める。もう一つ二つほど何か持ち帰れれば、コインは自分のものにできるかもしれない。

 タワーの影がゴミ山をすっぽり包み始め、そろそろ帰らねばと娘は戦利品を背負う。ポケットからコインを取り出し、もう一度まじまじと眺める。裏返し裏返し見てみれば、龍と鎖はおなじ形である。
 娘はふとタワーを見上げる。高い高い鉄の塊は、さらに長い長い影を生む。影は娘の家の方までのびている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・兼題部門(テーマ:日常)投稿作


『Nowhere Man』

「何処へ行っても、此処なんだ」
 砂の民はそういって笑う。きっと明日にはもう居ないその笑顔に恋をするのも、また明日。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・兼題部門(テーマ:日常)投稿作


『ぺぺぺぺぺ』

 あの山間から、まもなく満月が顔をだす。その時、呪文をとなえよ。さすれば世界は増殖する。



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