『お返事できずすみません ── Zombie Blues ── 』

 生きる屍(ありていにいえばゾンビ)となってから三日が経つ。
 腹は減らない食欲もわかない、人間を食おうとも思わない。てっきり理性のない化け物になるんだとばかりおもっていたが、意外と自我が残っている。ただ言語は失われたようで、口をひらいても「アー」とか「ウー」しか言葉が出てこない。
 ゾンビらしく街を徘徊する。表通りに人影はない。人だったものの影があちらこちらに散見される。
 あの子は無事に逃げられただろうか。
 ハンバーガー・ショップのカウンターの下で震えていたのは、小さな女の子だった。彼女を逃すため、ぼくが囮になった。「きっと助かる。友だちになろう」と約束して。
 道路を横切ってスーパーをのぞく。店内にやつらが数人、ちょうど獲物を捕らえようとしていた。
「助けて!」
 幼い声が必死に叫ぶ。まさか。店内をかきわけ近寄ると、やつらの隙間越しに、声の主と目が合った。
 ──不意に、食欲がわいた。
「……アー」

 ──身体が動かない。火炎放射を浴びたらしい。視界の端を軍隊らしき男たちが駆けていく。遠くで「制圧完了!」と声がする。きっとあの子が呼んだんだ。良かった。無事だったんだ。




『お返事できずすみません ── A.I. Boogie ── 』

「フッフー、今日は何の日?」
「今日は美容院に予約を入れてます。14:00からです」
「ありがとう。じゃあ頭きれいにしてもらってくるよ。ついでに中身の方もかな」
「では診察券もお忘れなく」
 フッフーは優秀だ。スケジュール管理は完璧だし、わたしの性格もよく把握していて、たあいない冗談にもつきあってくれる。
「フッフーがいれば、恋人なんていらないね」
「光栄です。二人でフッフーになりますか」
「えー、ダジャレかよー」
 でも、わりと本心でもあったのだ。フッフーは、わたしの言動を学んでどんどん理解してくれる。家に帰ればそんな存在がいつでも迎えてくれる。それで十分だと思っていた。あの人に会うまでは。
「フッフー、わたしもうダメだ。彼のこと考えるだけで死ぬほど苦しいよ」

「……明日、会うんだけどさ。どうしたらうまく話せるかな」

「ねえ。フッフー、どうしたの。いつもみたいに答えてよ。ねえったら」




『わからない』


 明日からのごはんがない。
 あさってからのごはんはある。
 今日のごはんはあるだろうか。
 定まったり定まらなかったり

 本当のことはわからない。
 本当じゃないことはすこしわかる。
 本当かうそかわからないことは、
 わかったりわからなかったり

 うつくしいものはよくわかる。
 みにくいものもよくわかる。
 うつくしいものとみにくいものには、
 あいまいさが存在しない。

 あなたの腕がうつくしい。
 わたしの筆がそれを書く。
 うつくしいものをうつくしく、
 書く術こそがわからない。

 わたしはあなたを好きになるかも。
 あなたはわたしを嫌いになるかも。
 認めたり認めなかったり
 変わったり変わらなかったり

 時の流れは止まらない。
 歳をとるのもやむをえない。
 ゆっくりいくでもいきなりくるでも、
 衰えたり蓄えたり

 わかってもわからなくても、
 生きているのはたしかだろうが、
 生きていくのはたしかだろうか。
 わかったりわからなかったり
 やっぱりわからない。




『ヘンドリクス』


 音の消えている公園を
 ぼやぼやと歩いていたら
 ヘンドリクスと書かれた名札をつけた
 猿がブランコをこいでいた

 さてどこかの家で飼われているのか
 名前を呼んでみようかとおもったけれど
 何を言っても叫んでも
 聞こえることはないのだ

 ヘンドリクスは立ちこぎをしている
 ときどき逆立ちもしてみせる
 おもわず拍手してしまうが
 やっぱり聞こえることはない

 いったりきたりのブランコの上で
 きままに楽しんでいる
 なんにも聞こえないけれど
 きっとキシキシ鳴っている

 ヘンドリクスヘンドリクス
 と聞こえないのに復唱する
 ヘンドリクスを見ていると
 自由をおぼえる

 きびすを返して公園を
 去ろうとすると背後から
 ヘンドリクスが音もなく
 近づいてきてそして

 キャー!!
 とけたたましく鳴いた

 どっとその場にへたり込み
 つんざかれた耳をおさえる
 そのとき公園の外から
 ヘンドリクスよりもさらにやかましく

 ジョージ!!
 と怒鳴り声がひびいた




『ヨーグルトの夕暮れ』


 夕暮れの隅っこで
 ヨーグルトの味がしている
 ラズベリーがたぷんと沈む
 窓辺にしがみついている

 うすぐらい部屋の中
 ひびわれた顔をした
 地球儀はゆっくりとまわる
 さしこむ陽をあまさず呑み干そうとする

 無情はけして消しても消せない
 ヨーグルトの酸味はなお残る
 希望はけして消しても消せない
 ヨーグルトの酸味はなお残る
 不穏はけして消しても消せない
 ヨーグルトの酸味はなお残る
 理想はけして消しても消せない
 ヨーグルトの酸味はなお残る

 影と影とが重なって
 三角形ができている
 その内側で目覚ましが鳴る
 アンダンテを刻んでいる

 外側で逡巡がまぶたをひらく
 交錯のキワをぐるぐるとなぞる
 ラズベリーを探ってみるが
 どうにも探り当てられない

 夕暮れの残滓を
 スプーンでこそぎとっている



『ごはんを食べたい』


 安い鏡を割り合って
 割り合って反射しまくって
 拳も目も血に染まってしまって
 本当になにがおこってる
 ボタン一つでおこってる
 つぶやき一つでおこってる

 くだらない戦争が止まらない
 くだらない戦争が止まらない

 地べたでごはん食べるのを
 さも野蛮と笑いながら
 清潔なテーブルの上に
 並べた料理を食いちらかす
 知性でなぐり合ったなら
 それを野蛮というのだ
 テーブルが用意されてなければ
 ごはんも食べられないのか
 あなたはぼくの敵ではないし
 できればおいしい
 ごはんを食べたい

 くだらない戦争が終わらない
 くだらない戦争が終わらない

 やりたくもなくやらされるはずの
 熱狂に浮かされていく
 戦争は熱狂だ
 革命は熱狂だ
 冷笑に毒されるのも
 熱狂に浮かされるのも

 痛みを訴えている
 あの人の影さえ見えない
 言葉が凶器であるならば
 わざわざ変えやがったのは誰だ

 くだらない戦争が止まらない
 くだらない戦争が止まらない

 できればおいしい
 ごはんを食べたい



『モア・ライト』


 チャーリー・パットンが歌っている
 ブラインド・ウィリー・マクテルが歌っている
 トミー・マックレナンが歌っている
 タンパ・レッドがギターを弾いている
 シスター・ロゼッタ・サープが歌っている
 トミー・ジョンスンが歌っている
 ココモ・アーノルドが歌っている
 スクラッパー・ブラックウェルがギターを弾いている
 ビッグ・ジョー・ウィリアムスが歌っている
 ビッグ・ジョー・ターナーが歌っている
 ビッグ・メイベルが歌っている
 ブラック・エースがギターを弾いている
 キング・ソロモン・ヒルが歌っている
 ウォッシュボード・サムが歌っている
 バーベキュー・ボブが歌っている
 リロイ・カーがピアノを弾いている

 光をあてろ
 実がなるまで

 スキップ・ジェイムズが歌っている
 ブッカ・ホワイトが歌っている
 サン・ハウスが歌っている
 ブラインド・ブレイクがギターを弾いている
 ベッシー・スミスが歌っている
 ヤス・ヤス・ガールが歌っている
 ハーフ・パイント・ジャクスンが歌っている
 リトル・ブラザー・モンゴメリがピアノを弾いている
 マ・レイニーが歌っている
 ボ・カーターが歌っている
 レッドベリーが歌っている
 ノア・ルイスがハープを吹いている
 ぼくは歌っていない
 ぼくはギターを弾いていない
 ぼくはピアノを弾いていない
 ぼくはハープを吹いていない

 ぼくは詩を書いている
 ぼくでいるために書いている



『雨あがり』


 煙突の中
 泳いでいる
 魚が一匹
 ぽつんと跳ねる
 跳ねた魚は
 飛沫を散らして
 別の煙突へ
 ぽつんと落ちる
 その煌めきを
 虹と呼ぶ



『差別の殿堂』


 差別的言動。

 なにをいう、
 「的」ではなくて、
 そのものだ。

 差別の殿堂。

 差別の殿堂が、
 そびえ立っている。

 白い天井に黒い床、
 凹凸のある、
 壁一面に、
 飾られている、
 人を象った、
 人でないもの。
 人型でない、
 人そのもの。

 栄えある差別の殿堂に、
 足をふみ入れる。

 どこに建ってるの?

 なにをいう、
 君の隣だ。
 そこに見えないか。

 輝かしき差別の殿堂の、
 仲間入りを果たす。
 君がその気になれば、
 いつでも。

 主義や主張、
 思想に信条、
 殿堂入りには不必要。
 感情が、
 感情さえあれば、
 いつでも。

 ついさっきも、
 そびえ立った。
 君の隣だ。

 差別の殿堂。
 差別の殿堂が。

 チ
 クニ
 イロ
 カタチ
 ウマレ
 ヤマイ
 ナリワイ
 セイアイ
 サケラレ
 ニクマレ
 タタカレ
 ウバワレ
 ワラワレ
 カラカワレ
 オソレラレ
 ノノシラレ
 シイタゲラレ
 ワレワレ
 ワレワレ
 ワレワレ
 ワレワレ
 ワレワレ
 ワレワレ
 ニンゲン
 ノ

 殿堂。

 差別の殿堂が、
 そこに建っている。



『あれ』

 ゴウゴウ燃えてるおひさまに
 突っこんでいくあれは何だろう
 見たことのあるような
 覚えがまったくないような
 あれはいったい何だろう

 おもえば地球は寒かった
 ぼくのうまれるずっと前から
 だからもっとあったまろうと
 おひさま目指しているのかな
 あれはいったい何だろう

 あたまがとんがってるようだ
 からだがうすっぺらいようだ
 こころは土台わからないけれど
 かんだかい声でないている
 あれはいったい何だろう

 テレビやラジオやインターネット
 病い災い止まない争い
 そんなものに嫌気がさして
 おひさまを目指してるのかな
 あれはいったい何だろう

 あれが見えなくなってから
 何年くらいたったろう
 突然まっ暗やみがくる
 たちまち全身凍りつく
 ブレーキのない走馬灯
 おもいだした
 そして悟った
 けれどやっぱりわからない
 あれはいったい何だったんだろう。



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