『ゴスペリ』

 階段を上ってく、段々と息も上がってきて、テンションは下がってくばかり、炭酸でもあおるかとカバンを探れば缶バッヂが弾みで外れ、転々と落っこちてった。チクショ。呟いたその時「アテンションプリーズ!」の声、響きわたる。何なんだ。
「アテンションプリーズ、プリーズ、プリーズ」
 繰り返されて、反響もやまずに「プリーズ、プリーズ」うるさいよ。すると声は「頑張って」云われたくないよ。何だってこんな「だっても何も」ええいうるさい。
 階段を上ってく、段々と泣けてくる。ぽたぽたと涙と汗。点々と跡が残る。上ってく。上ってく。暑い、のぼせてくる。
「アテンションプリーズ!」
 上ってく。上ってく。上ってく。上ってく。
 くだらない。くさってくる。込み上げてくる。吐きたくなる。ウエ。
 止まっちまう。
 ウエエエエ、止まらない。
「アテンションプリーズ!」
 あったまきた。ぶん殴ってやる。
 上ってく、上ってく、上ってく、上ってく上ってく上ってく上ってくてく上る上る上るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるァ!! てっぺんきたぞコラァ!!
「素敵な空の旅を」



『だいたいたいだ』

 おかしらといえば、だいたい鯛だ。
 人間といえば、だいたい怠惰。
 人間、現に今もそう。願わくば前向きに走り回りたいのはやまやまなのだが残念、ねんざで動けない。思考もすこぶるマイナスな今、買い物に行く気力はない。おかしらといえばだいたい鯛だが今たべたいのは鯛ではない。イカだ。そうだ。買い物頼も、イカ。
「6号!」
 声に反応し、おもむろに動く6号。
 鉄ノ人6号はお手伝い用正義のロボット。1号から5号は不具合により故障したが、6号は今のところ正常に動いている。自分が行くよりコイツに頼んだ方が断然安全だ。
「およびですか」
「任務を授ける」
 買い物メモを渡すと、6号はおもむろに窓から飛んでいった。
 6号の帰りを待つ間、ソファに座ってテレビを点ける。ちょうど落語をやっている。
 地獄八景亡者戯を、極楽で演じる米朝師匠。現世の怠惰な人間がそれを見る。極楽落語とはこれ如何に。
 そうこうしているうちに、6号が買い物から戻ってきた。ご苦労さん。あれ?
「カツラどうした?」
「落下しました」


??


回文超短編投稿作。

『自由』

 自由
 という
 罠にはまる
 自由
 という
 穴にはまる

 自由
 それは
 火星をたべる
 自由
 それは
 昔をわらわす

 自由
 の病
 甘い病
 止まない病
 青い病

 ふ自由にどうぞ
 おとなとこども
 平和と戦争
 月と太陽

 明けわたすな
 頭の中を
 明けわたすな
 やましい心を
 明けわたすな
 うつくしい夢を
 明けわたすな
 勝手な傷を

 自由
 もっと
 自由になれ
 自由
 世界を
 滅ぼすくらい
 自由
 もっと
 自由になれ
 自由
 時間も
 狂わすほど
 自由
 自由をうたう自由
 自由
 自由をめざす自由
 自由
 自由をうばう自由
 自由
 自由をきらう自由
 自由
 自由のまえに自由
 自由
 自由におもう自由
 自由
 自由のための自由
 自由
 自由とそして自由
 自由
 は自由
 の自由
 を自由
 で自由
 に自由
 も自由
 が自由だ

 自由
 自らが
 自らである
 その由。


『詩が』

 詩が
 雨のようにぽつんとあたまの上に
 おちる
 いらっしゃい
 あなたはどなた
 そんなことは知らない
 と詩はいう
 おれが何者であるかは
 おまえが決めるんだ
 と詩はいう
 わたしは悩み
 悩みながら
 詩の正体をけんめいに考え
 いくつもの回答を詩に提示してみたが
 詩は
 詩カッケイになったり
 語カッケイになったり
 自由詩カッケイになったり
 散文ノ語カッケイになったりするばかりで
 横にも縦にも首をふることもなく
 正しいともまちがいだともいわない
 いっそう謎は深まって
 初めはそれが
 意地悪さによるものなのか
 やさしさによるものなのか
 わたしは図りかねていたが
 もしかすれば
 ほかならぬ詩
 それ自身が
 何者であるかをわからずにいて
 その哀しみのあまりに
 さまよいとさすらいをつづけていて
 わたしの元へもふらっと下りてきて
 自らを問うてみたのではあるまいか
 と、詩に尋ねてみたところ
 おまえ、
 ブルースにかぶれすぎだよ、
 と笑われてしまった


『まばたき』

 アイドルのような顔をした
 女の子がいる。
 女の子ども。
 アイドルをめざすわけでも無いのに
 アイドルのような顔をしている。

 ともだちが勝手に履歴書をおくって
 という台詞がいかにも似あう
 女の子はクロワッサンを食べている。
 チョコクロワッサン。
 カマンベールチーズパンと
 どっちにするか迷ったすえ
 値段と大きさの比率がより
 高い方をえらんだ。
 アイドルは、アイドルでも
 身長体重スリーサイズ
 すべてルーレットで決める
 そんな所作こそがふさわしい
 クロワッサンをほおばる女の子。

 アイドルのような顔をした
 女の子は木のぼりをする。
 女の子ののぼる木は
 だからといって
 アイドルの成る木ではない。
 アイドルの成る木は
 だからといって
 金の成る木ではない。
 金で買えるものは
 金で買えばいい。
 金で買えないものは
 金以外で買えばいい。
 金の成るアイドルは
 だから
 金では買えない。
 女の子は木のぼりをたのしんでいる。
 アイドルのような顔をして
 たのしんでいる。

 ロックンローラーのような目をした
 男の子がいる。
 男の子ども。
 ロックンローラーをめざすわけでも無いのに
 ロックンローラーのような目をして
 アイドルのような顔をした女の子を見つめている。
 女の子のアイドルのような顔は
 男の子のロックンローラーのような目に侵食されて
 アイドルのようだかロックンローラーのようだか
 わからない顔つきになっていく。
 男の子は男の子で
 ロックンローラーのようだかアイドルのようだか
 わからない目つきになっていく。
 女の子と男の子はしかし
 ひとつの言葉もかわさない。

 女の子は山手線の
 男の子は埼京線の電車にのりこむ。

 大人になったとき
 女の子はアイドルのような顔の
 ロックンローラーをめざし
 男の子は
 ロックンローラーのような目の
 アイドルをめざす
 という道が見えるとすれば
 女の子と
 男の子は
 もっとずっと奥のほうの
 やわらかくて冷たいところで
 通じあっているのにちがいない。

 アイドルのような顔をした
 女の子は
 アイドルのような服を着ることはなかった。
 ロックンローラーのような目をした
 男の子もまた
 ロックンローラーのような服を着ることはなかった。

 アイドルのような生き方を
 女の子はするかもしれない。
 ロックンローラーのような生き方を
 男の子はするかもしれない。
 しないかもしれない。

 アイドルのようなロックンローラーのような
 アイドルとロックンローラーが
 まばたきのような
 まばたきをしている。



『風のなかのひとさじの』

 どこの空も
 おんなじだ
 どこの
 きぼうも
 ぜつぼうも
 おんなじなのと
 おんなじだ

 かんたんだ うたうなんて
 かんたんだ おどるなんて
 かんたんだ わらうなんて
 かんたんだ いきるなんて

 うそだって
 つけばいい
 ほんとうさって
 いえばいい
 なきむしの
 トランペットが
 ハーモニカ
 に嫉妬している

 だれの涙も
 かなしいわ
 そこの
 銃も
 爆弾も
 怒りでも
 憎しみでも
 無言のうちに
 よごされて
 ながす涙も
 どんな涙も
 だれの涙も
 かなしいわ
 かなしいわ

 ネパールの
 くすりうり
 スコットランドの
 おんがくか
 フランスの
 だいとうりょう
 モロッコの
 がくしゃさん
 ニッポンの
 こどもたち
 キプロスの
 にんぷ
 ウルグアイの
 サッカーせんしゅ
 インドネシアの
 パンクロッカー
 インターネットの
 しねんたい
 ゲットーの
 暗がりのささやき
 こうそうビルでの
 ひそやかなかいごう
 しんかい魚が
 ついばむしかばね
 風のなかに
 とけている
 どこかのだれかの
 過去と過去と過去とが
 どこにもだれにも
 すいこまれてる
 あなたの今に
 はいりこんでる
 どなたの過去が
 いきている
 いきている

 花と わらって
 星と おどって
 水と ねむって
 時も ほどけて
 手と 手を
 にぎって
 つたわる
 いのち

 どこの空も
 おんなじだ
 だれの涙も
 かなしいわ
 何なに色も
 うつくしい
 どんな命も
 やさしいわ



『かわき、ざわめき、まがまがし』

 サイコロを振る。出た目は「かわき」。コマをかわき進めると、止まったマスが砂漠となった。
 さらに振ると「ざわめき」が出た。コマはざわめき、不安な表情で立ちすくむ。
 相手がサイコロを振る。出た目は「まがまがし」。止まったマスから、まがまがしい形のツノが生える。さらに振れば、またもや「まがまがし」。コマからもツノが生え、ツノというツノがこちらへ迫ってくる。
 急いでサイコロを振る。出た目は「わき」。マスから水がわき、砂漠はうるおう。勇気がわいたコマはりりしい表情を見せる。
 ここが勝負所と、サイコロを裏返す。
 出た目は「きらめき」。コマは流星の一群となって、追ってくるツノというツノを打ち砕く。
 相手の番。出た目は三たび「まがまがし」。鬼と化したコマが金棒を振り乱す。
 対するこちらは「かぶき」さらに「はなばなし」。大見得を切って舞い散る桜吹雪が鬼の目をくらませる。
 同時にサイコロを振る。相手は「なまあたらし」。こちらは「みめうるわし」。
 おんなじマスに同時に止まる。
 マスは脈打ち、美しい「舞妓ロ」の乙女が生まれる。
 舞妓ロが、にっこり笑って自らを振る。その目をのぞきこんでみれば。

「おあとがよろし」


『P』

 広大な綿花畑の中を汽車が走る。
 車両の一番後ろで、膝上のギターに頬杖をつき、チャーリーは外をぼんやり見ていた。綿花畑は地平線まで続いている。
「坊主、『えんどう豆』に乗るのは初めてか」
 恰幅のいい男が、隣に座って話しかけてきた。
「ほれ、吸えよ」
 差し出された煙草をくわえ、チャーリーは訊ねた。
「おじさん、この汽車なんで『えんどう豆』なのさ」
「ああ。何しろだだっ広い農場だ。仕事場までの線路があっちこっちに敷かれてる。それが豆のつるみたいだってんで、そう呼ばれてんのさ。坊主、弾けんのかい」
 男がギターを指差した。
「練習中だよ」
「まあな、俺たちみたいなのは、一生農夫でいるか、流れ者の芸人になるか、さもなきゃ……」
「檻にぶち込まれるか、だろ。知ってる」
「どれ、ちっと貸してみな」
「弾けんのかい」
「練習中さ」
 轟々と動輪は鉄の上うなる。蒸気の音が拍を刻む。男の演奏に、チャーリーはおもわず身を乗りだした。
 汽笛が鳴り、汽車はゆっくり停車する。
「おじさん、ギター教えてよ」
「気が向いたらな」

 チャーリー・P・トウェインの『えんどう豆』、年代物のレコードが回る。ノイズの向こうに黒い煙が噴き上がる。


『抵抗』

 ある朝、目を覚ますと一匹の毒虫に変身していたのはグレーゴル・ザムザである。
 ある朝、目を覚ますと一人のグレゴール・ザムザに変身していたのが私である。

 グレーゴル・ザムザに変身してしまった私が第一に考えるべきは、それがいつになるのかはまだ判らないが、いずれ訪れるだろう毒虫への変身を如何にして回避するかである。
 第二には、それでも否応なく変身してしまった場合、父から林檎を投げつけられるのを如何に阻止するかである。
 両親と妹と仲良く過ごしながらも、私の頭はそのことでいっぱいであった。
 そもそも、どのタイミングで毒虫へと変身してしまうのだろう。
 「ある朝、目を覚ますと」毒虫に変身しているのだから、夜ねむっている間に変身してしまうことは間違いない。
 夜という時刻がそうさせるのか、それともねむっているという状態がそうさせるのか。
 あるいは夢を見ることを契機にして変身してしまうのだろうか。
 また、どういう段階をふんで変身するのかも問題である。
 いきなり変わってしまうのか、それとも侵食されるかのようにじわじわと変わっていくのだろうか。
 蝉の羽化のような変身は、それならばグレーゴル・ザムザの抜け殻がそこに残るはずであるから考えにくい。
 私にとってひとつ優位なのは、私がもともとはグレーゴル・ザムザではなかったという点である。
 グレーゴル・ザムザは自分が毒虫に変身してしまうなどとは夢にもおもわなかったはずである。
 グレーゴル・ザムザのたどる道をあらかじめ知った上でグレーゴル・ザムザへと変身してしまった私は、何らかの対策を(有効か無効は別として)講じられるはずなのである。
 そうかこれは運命への抵抗であるのだ、と私はおもった。
 破滅の運命にしたがう義理などないのだ。
 私の挑戦は、救われないグレーゴル・ザムザを救うための手立てにもなり得るはずである。
 そこまで考えて、私はある重要なことに、はたと気づいた。
 私はもともと、何であったろう。
 毒虫に変身したグレーゴル・ザムザは、毒虫に変身する前の自分がグレーゴル・ザムザであったことを当然ながらおぼえていた。
 私にはその記憶がない。
 グレーゴル・ザムザに変身する前の私は何者であったか。
 どうしてもおもいだせない。
 こんな重要なことに、なぜ今まで気づかなかったのか。
 私は、だれだ。
 頭のなかに霞がかかっている。
 先までの勇ましい気持ちがみるみるしぼんでいくのがわかる。
 私は、だれだ。
 手立てを見つけられないまま、まどろみさえ惜しむ夜が、またひとつ過ぎていった。

「兄さん、林檎たべる?」
 そう妹に云われて、私は動揺する気持ちをせいいっぱい押し込めた。
 妹が林檎をひとつ、こちらへ放り投げる。私はそれを両方の手で必死につかみ取った。
「今度の週末、みんなでピクニックに行くの、忘れないでね」
 つかんだ林檎を落としそうになるのを、やはり必死にこらえた。

 私はまだ毒虫に変身してはいない。
 もしや、気づかぬうちに運命をすでに回避していたのだろうか。
 それとも、いよいよその日が訪れてしまうのだろうか。
 頭がぐらぐらとして目眩がする。
 冷静さを取り戻さねばならない。
 もしも、毒虫に変身する運命がまもなく訪れるのだとすれば、次に考えるべきは、林檎を投げつけられるのを阻止することである。
 これは、毒虫に投げつけられる林檎であろうか。
 すこし落ちついて考えてみる。
 グレーゴル・ザムザを襲う運命は、林檎にとっても災難であるに違いない。
 わざわざ毒虫に投げつけられたい林檎などいるはずもない。
 おぞましい毒虫の背中にめりこまねばならない林檎の運命もまた哀れなものである。
 妹にもらった林檎をまじまじと見る。
 ひと口かじろうとして、ふとおもいとどまる。
 ふるえているのは、林檎か、それとも私の手か。

 ある朝、目を覚ますと一匹の毒虫に変身していたのはグレーゴル・ザムザである。
 ある夜、目を覚ますと一個の林檎に変身していたのが私である。
 否。
 変身したのではない、もとに戻ったのだ。
 おもいだした。
 私は、私こそは、毒虫となったグレーゴル・ザムザに投げつけられる林檎だったのである。
 林檎に戻った私が考えるべきは、ただひとつである。
 おぞましい運命にしたがう義理などない。
 これは運命への抵抗であるのだ。
 バイオリンの音が聴こえる。



『テレフォン・コール』

 真夜中、電話ボックスの中。二人の少年は汗ばんでいる。噂のまじないを決行するべく。
 ウィルソンがまず受話器を取った。コインを入れ、6・4・3と回す。次いでピケットが、5・7・8・9と回した。そして二人で受話器を握りしめる。
 呼び出し音が鳴る。1回。2回。3回鳴ったところで「ハロー」と声がした。二人は受話器に向かって、
「ポニー」
 と声を合わせて言った。
「マッシュポテト」
 と相手が答える。
「ワツーシ」
「アリゲーター」
「ツイスト」
「ジャーク」
「ナナナナ」
「ナーナナナナ、オーケー」
 電話が切れた。二人が電話ボックスを出ると、はたして女が三人、そこに立っていた。
 “闇の踊り子”は、町の少年ならたいていは知っている噂話だ。やせ型のボニー、小柄のルーシー、長身のサリー。その手をとって夜通し踊れば、女の持つ魔力が得られる。二人は互いの唾を呑みこむ音を聞いた。
 ウィルソンはボニーの、ピケットはサリーの手をとり、それぞれ闇に消えていった。
 残されたルーシーは電話ボックスに入り、二人が回したのと同じ番号を回す。呼び出し音が1回。2回。3回。1000回目には夜もあける。その時、天国も地獄となる。


calendar
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< April 2017 >>
sponsored links
nonaiblues
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM