『おどっている』

 ぼくはいつも
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 ばっかり 考えている
 いや 考えていない 想っている
 いや 想っていない 夢みている
 いや
 どれも本当で
 どれもうそみたいだ けれど
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 ぽっかり あいた あなのなかに
 ひびかせている
 いや かってにひびいている

 音楽は なにしろ すてき
 どろどろの 泥にもなるし
 さらさらの 泡にもなるし
 ふわふわの 鳥にもなるし
 しわしわの 性器にもなる
 音楽は もうずっと
 ずっと前から
 ぼくの来るのを 待っていた
 いや 待っていない ただ わらっていた
 そこ でもなく どこ でもなく
 大地で 海で 宇宙で
 朝で 夜で 夏で 冬で
 とおい過去で はるか未来まで
 どんどこどんどこ なっているんだ

 ぼくはいつも
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 かなしいくらい
 わすれるくらい
 いきてる かぎり
 死なない かぎり
 あまりに すてき
 な ばっかりに
 気がつけば
 だれもいない
 音楽を履いた
 地球のうえで



『花はどこへ行ったの』

 おばけ屋敷に、おばけが住んでいる。
 おばけは小さな花を愛でている。花は、暗がりに置くとほんのり光る。そして、近寄るとおばけそっくりの姿をその光の中に浮かびあがらせる。おばけは屋敷の至るところに花を飾りつけていた。
 ある夜、屋敷に青い鳥が迷いこむ。追っ手から逃げている最中だった青い鳥は、無我夢中で階段の陰に身をかくした。すぐさま追っ手が屋敷を訪れ、屋敷内を物色する。階段の前まで来た時、傍にぼうっと浮かぶ青い鳥を見つけると、追っ手はそれを乱暴につかんで屋敷を後にした。
 物陰から出てきた青い鳥は、ほっと安堵のため息をつく。追っ手がさらっていったのは、青い鳥の姿を映した花の方であった。
 今度は青い鳥が屋敷内を物色し始める。そして花をひとつ残らずかき集め、持ち去ってしまった。
 朝になり、おばけは花がなくなっていることに気づいた。
 おばけは声をあげて泣いた。その声は周囲にも届くほど激しく、本当に哀しそうな音色で響いた。おばけ屋敷の噂は広まり、肝試しに訪れる者も中にはいた。しかし訪れる誰もおばけの姿を見ることはもうない。ただ哀しい泣き声だけが聞こえてくる。



コトリの宮殿「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選・自由題部門 優秀賞


『かたつむりの唄』

 あじさいの葉っぱの上で、かたつむりのトオンが眠っています。ながいながい夢を見ています。夢のなかでトオンは一羽の鳥になって、自由に空を飛びまわります。たかく昇ったかとおもえば、地面すれすれを滑空する。まっすぐ突っ切るかとおもえば、くるくると旋回する。空を飛ぶのはまるで一編のメロディにでもなったかのようで、トオンはたいへんうれしい心地でいました。
 しかし突然の雨によって翼が溶けてなくなるところで、トオンは眠りから覚めてしまいました。飛ぶことなど到底かなわない、いつもののろい自分です。トオンはたいへん哀しくなりました。
 このツノが、もしも翼だったならば。
 トオンはめいっぱいにツノをのばすと、落ちてくる雨音のリズムに合わせて左右に振ってみせました。トン、トン、トーン、とトオンは空想のメロディを飛ばします。
 その時でした。ふつっと雨が止み、代わりに、ひときわ暗い影が葉っぱの上に落ちました。のばしたツノのすぐ先で、一羽の鳥がくちばしを開いています。
 ああ、きっと生まれ変わったら、わたしもあなたになるんだ。
 心底そう願いながら、トオンはゆっくり目を閉じました。ながいながい夢のつづきを見るために。



コトリの宮殿「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選・兼題部門(テーマ・お伽話)優秀賞

 

『タルタルソース』

 雪が嫌いで嫌いも嫌いで嫌いがすぎて嫌いなあまり、雪に解けない呪いをかけた。
 以来、南極アラスカシベリアヒマラヤストックホルムグリーンランド、寒い地域の至るところに、エビ型のUFOが飛来してくる。



『学名:ヒノデ』

 水平線から空に向かって這いのぼっていくのを指さして「あれが件のかたつむりだよ」と地球の友達が教えてくれた。



もうすぐオトナの超短編 千百十一選・自由題部門 投稿作

『EVIL』

 齢八十に達した頃、突如として世界が逆流を始めた。
 冬のあとには秋が、秋のあとには夏が、夏のあとには春が、そして春のあとには冬が。一秒一秒、未来へと進んでいた世界が、一秒一秒、過去へと後ずさっていく。
 それにつれ身体も若返る。まもなく訪れるはずだった死は生へと転換され、そして生は死へと変わる。すなわち赤ん坊からひと粒の種へと戻る時が、死を迎える時であると。
 逆流するこの世界では、己の寿命があらかじめわかってしまう。
 現在(時計の針が右回りであれ左回りであれ、ただ現在だけは変わらず現在であり続けるらしい)、齢四十にまで遡った私は、旧年を迎える準備をしている。年越しに雑煮を食べ、旧年祝いに蕎麦を食べる習慣にももう流石に慣れたものだ。
 生活には慣れても、どのみち生きることに慣れはしないと思い知る。ならば残り半分、せいいっぱいに全うするのみ。この逆流を、私は生きる。ただ生きる。
 まもなく年が変わる。四、三、二、一、変わった。十二月三十一日。暮れましておめでとう。



もうすぐオトナの超短編 千百十一選 兼題部門(テーマ「年の暮れ」)投稿作


『BIRTHDAYS』

「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 双子の姉弟ミソカとガンタは、こたつでお蕎麦を食べている。
 ミソカはかまぼこを口へと運び、ガンタは汁をすすり飲む。
「美味しいかな」
「美味しいよ」
 双子の姉弟ミソカとガンタは、こたつでみかんを食べている。
 ミソカは三つめに手をのばし、ガンタは四つめの皮をむく。残るみかんはあと二つ。
「あと何時間?」
「あと一時間」
 双子の姉弟ミソカとガンタは、こたつで並んでテレビを観る。
 ミソカはテレビの時計を見つめ、ガンタもテレビの時計を見つめる。九、八、七、六、
「五」
「四」
「三」
「二」
「一」
「誕生日おめでとう」
「めでたいかな」
「めでたいよ」
「ありがとう」
「いくつになった?」
「あんたとおなじ」
「そうか」
「そうだ」
「それじゃあ」
「それじゃあ」
『あけましておめでとう』



もうすぐオトナの超短編 千百十一選 兼題部門(テーマ「年の暮れ」)未投稿作 

『なんとなく』

 「ワン」と鳴くのは犬である。「ニャア」と鳴くのは猫である。「ヒヒン」と鳴くのは馬である。「メー」と鳴くのは羊である。
 「30」と鳴くのは何であろうか。
 ある寒い日のことであった。夕飯の買い物をすませて家路を急いでいると、今までに聞いたこともない妙な鳴き声がどこからか聞こえてきた。
 それは数字の「30」と鳴いているように聞こえる。立ち止まって声のする方を探ると、電柱の陰に何かがいる。犬か猫の類かと最初はおもったが、目をこらして注意深く見てみると、なにやら毛むくじゃらの謎の生き物がそこでうずくまっていた。
 体長は30センチほど、脚は短く、尻尾もない。代わりに頭のてっぺんからはフックのような角が生えている。新種の生き物であろうか。
 それはじっと動こうともせずに、ただ「30」と小さく鳴くばかりである。怯えているのか、それとも腹をすかせているのか。買い物袋のなかからハムを取り出して一枚差し出してみると、勢いよく飛びつき、一気に食べてしまった。そして私の足にまとわりついてきたので、そのまま連れて帰った。
 私はそいつを「サンジュ」と名づけ、飼うことにした。サンジュは私によく懐いた。共に暮らしてみると、サンジュの鳴き声が「30」だけではないことに気づく。楽しい時には「10」と鳴く。寂しい時には「20」と鳴く。機嫌のわるい時には「40」と鳴く。そして「30」と鳴く時は、甘えている時である。
 時々、サンジュは全身の毛を逆立てて、壁や天井を自在に走り回ったりする。そして毛の一部を長々と伸ばし、そこに角を引っかけて、ロープウェイのように壁から壁へ滑空したりもする。
 サンジュの顔を、私はまだ見たことがない。毛に覆われていつも隠れているのである。

 三年ほど共に暮らしていたがある日、帰宅してみると、サンジュはいなくなっていた。
 部屋を荒らされた形跡はなく、ただサンジュの角だけが床に落ちていた。
 私は、なんとなく察するものもあり、探すことはしなかった。クローゼットを開け、スーツと一緒にサンジュの角も掛けた。

 「ワン」と鳴くのは犬である。「ニャア」と鳴くのはネコである。「ヒヒン」と鳴くのは馬である。「メー」と鳴くのは羊である。
 「30」と鳴くのは、サンジュである。
 「300」と鳴くのは、何であろうか。
 暮れも押し詰まった大晦日の夜、戸を叩く音がした。そして戸の外から「300」と鳴く声がする。私は迷わず戸を開けた。
 体長は150センチほど、手足は長く、毛もすっかり抜け落ちていて、ようやく顔を見ることが叶った。頭には新しい立派な角が生えている。
 「エーン」と泣くのは子どもである。大人は声を押し殺して泣く。

「おかえり」

 もうすぐ年が明ける。来年は、良い年になりそうである。



『水色の散歩道』

 月曜日とは憂うつなものだと相場が決まっている。学校へ行く学生も、会社に向かうサラリーマンもみんな浮かない顔で歩いている。
 一方、犬や猫やおばけやドミノには学校も会社もなく、ましてや月曜日なんて概念もない。学生やサラリーマンが浮かない顔で歩くその横を、すました顔で歩いたり浮かんだりパタパタ倒れていたりする。
 今「何故ドミノ?」と思われたかもしれない。実は、あなたは気づいていないだろうが、ドミノはどこのどんな道にもひそかに並んでいて、常にパタパタ倒れているのである。
 稀に、ドミノの倒れる音を聴くことがある。ほとんどが一律のドミノの列に、肉厚のふっくらとしたドミノがまぎれている場合である。それはブギウギのリズムにも似て、聴けば憂うつな気分もすこし晴れる。
 もしも聴きつづけようとすれば、あなたは学校へも会社へも行く気が失せ、ドミノの倒れる先を辿っていきたくなる。不安と期待とが入り混じりながら辿るその道筋は、通称「水色の散歩道」と呼ばれる。そして行きつく先はひとつである。すべてのドミノは丘へと通ずる。丘にはブルーベリーが生っている。



『pp』

「夜明け前、ある一定の間だけ、風向きが変わって追い風になる。そこを狙いなさい」

 絶えず吹きおろされる強風と共に、誰の手によるものか大きなラッパの音が谷へと届く。その音色に恋をした盲目の青年は、占い師の言に従いその時を待った。花束を持つその手をひそやかに震わせながら。
 風向きが変わった。ラッパの音がか細くなる。今だ、と青年は花を投げる。
 ふたたび吹きおろされる強風のなか、ラッパの音色はか細いまま。いや。止んだ。



「もうすぐオトナの超短編」たなかなつみ選・兼題部門佳作 (テーマ:期間限定)


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