『アイ・ノウ』

 雨は、だれでも知っている。
 アメニアラズは、だれも知らない。
 夕立にまぎれ、またしても屋根の上、車の上、紫陽花の上、傘の上でアメニアラズはさびしいあまりのタップダンスを踊っている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・自由題部門投稿作


『エレベーターの恋』

「バイバイ、またね」そういって、三角形は蝶になって外へと飛び去った。置いてきぼりの四角形は、再会の言葉を信じて口を開けて待っている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・自由題部門投稿作


『FOOL’S GOLD』

 高い高いタワーから、一枚のコインが落ちる。

 一人の娘がゴミ山を物色していた。折れ曲がったパイプであちこちかき回すが、めぼしいものはなかなか見つからない。ひと息つこうと首をもちあげた時、ゴツンとひたいに何かが強くぶつかった。
 娘は思わずうずくまった。ひたいに当てた手をそっと見ると血がついている。その手の向こうで何かが光った。足下にコインが転がっている。やっといいものが見つかったと娘は喜び、血のついた手でコインを拾う。
 見たことのないコインだった。片面には龍が、もう片面には鎖と文字が彫られている。陽にかざせばキラキラとまぶしいくらいに輝くので、きっと値うちものに違いないとコインを尻のポケットに押し込んだ。
 再び娘はゴミ山を物色し始める。もう一つ二つほど何か持ち帰れれば、コインは自分のものにできるかもしれない。

 タワーの影がゴミ山をすっぽり包み始め、そろそろ帰らねばと娘は戦利品を背負う。ポケットからコインを取り出し、もう一度まじまじと眺める。裏返し裏返し見てみれば、龍と鎖はおなじ形である。
 娘はふとタワーを見上げる。高い高い鉄の塊は、さらに長い長い影を生む。影は娘の家の方までのびている。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・兼題部門(テーマ:日常)投稿作


『Nowhere Man』

「何処へ行っても、此処なんだ」
 砂の民はそういって笑う。きっと明日にはもう居ないその笑顔に恋をするのも、また明日。



 「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選・兼題部門(テーマ:日常)投稿作


『ぺぺぺぺぺ』

 あの山間から、まもなく満月が顔をだす。その時、呪文をとなえよ。さすれば世界は増殖する。



『破顔』

 青いカバンと赤いカバンと白いカバンと黒いカバン。どのカバンも中身は空。どれか一つを選べといわれ、白いカバンを選んでみる。手に取ってみるとぜんぜん軽い。やはり中身は空のようだ。
 あけてみろといわれ、カバンの口を開いてみた。途端、中から一気に放たれたのは空。見上げれば、快晴。
 なかなか勘が鋭いなといわれる。
 お弁当とお菓子をカバンにつめこみ、わくわくしながら出発する。


 もうすぐオトナの超短編 峯岸可弥選・自由題部門投稿作

『花の檻』

 部屋の壁一面に、色とりどりの花が飾られている。何の部屋かと訊ねれば、牢屋だと看守は答える。よくない思想をもつ者が入る牢屋だと。
 看守と入れ替わりで今度は女の人が入ってくる。誰かと訊ねれば、歌の先生だという。
「あなたはこれから毎日ここで歌をうたわなければならないの」
 レッスンを受けながら、毎日ぼくは歌をうたう。歌は日に日に上達していく。
 どんな歌かといえば、先生と花の歌だ。
『先生の花はとてもやさしい 先生の花はとてもきれい 先生の花はとてもさらさら 先生の花は心地よい 先生の……』
 毎日ぼくは歌をうたう。歌は日に日に上達していく。
『先生の花はとても甘い 先生の花はとてもなめらか 先生の花はやわらかい 先生の花はあたたかい 先生の……』
 毎日ぼくは歌をうたわなければならない。歌は日に日に上達してしまう。
『先生の花はとてもちいさい 先生の花はとても繊細 先生の花はとてもあざやか 先生の花はとてもおいしい 先生の……』
 壁の花は、決して枯れることがない。


 もうすぐオトナの超短編 峯岸可弥選・兼題部門(テーマ:暴力)投稿作


『魚と眠る』

 魚は鳴かない。歌わない。
 魚は回る。くるくる回って、虹を奏でる。

 ドーナツフィッシュを飼っている。細長いからだをひたすらに旋回させてきれいな円を描く様からその名がつく。そして四方に入り組んだギザギザのひれが水を切り、回れば回るほどに豊かな旋律を響かせる。品種ごとの共通性はあれども、その音色や旋律は、一匹一匹で異なる。それ故にコレクターが世界中にいて、かつては私もその端くれだった。
 今は水槽に一匹だけが泳いでいる。アスールという種で、ブリードはさほど稀少でもないが、ワイルド種は珍しい。淡々と、物憂くも甘い旋律を水槽のなか刻みつけるこの一匹さえいれば、今の私には十分である。ナナという名をつけた。
 日に三度、ナナは回る。朝と昼とそして夜、眠る前だ。ひとしきり回り終えると、ナナは眠る。その旋律が鳴りやむのを認めて後、私も眠りにつく。
 鳴りやむ前に寝入ってしまうことも、近頃は増えてきた。昔に比べ、旋律もずいぶんとゆったりしてきたようにおもえる。ナナも私も、歳をとった。
 ベッドに横たわり、まどろみながら耳を傾ける。やがて見るのは虹の夢だ。ナナ。妻の名。おやすみ、ナナ。



『おどっている』

 ぼくはいつも
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 ばっかり 考えている
 いや 考えていない 想っている
 いや 想っていない 夢みている
 いや
 どれも本当で
 どれもうそみたいだ けれど
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 ぽっかり あいた あなのなかに
 ひびかせている
 いや かってにひびいている

 音楽は なにしろ すてき
 どろどろの 泥にもなるし
 さらさらの 泡にもなるし
 ふわふわの 鳥にもなるし
 しわしわの 性器にもなる
 音楽は もうずっと
 ずっと前から
 ぼくの来るのを 待っていた
 いや 待っていない ただ わらっていた
 そこ でもなく どこ でもなく
 大地で 海で 宇宙で
 朝で 夜で 夏で 冬で
 とおい過去で はるか未来まで
 どんどこどんどこ なっているんだ

 ぼくはいつも
 ぼくはいつも
 音楽のこと ばかり
 かなしいくらい
 わすれるくらい
 いきてる かぎり
 死なない かぎり
 あまりに すてき
 な ばっかりに
 気がつけば
 だれもいない
 音楽を履いた
 地球のうえで



『花はどこへ行ったの』

 おばけ屋敷に、おばけが住んでいる。
 おばけは小さな花を愛でている。花は、暗がりに置くとほんのり光る。そして、近寄るとおばけそっくりの姿をその光の中に浮かびあがらせる。おばけは屋敷の至るところに花を飾りつけていた。
 ある夜、屋敷に青い鳥が迷いこむ。追っ手から逃げている最中だった青い鳥は、無我夢中で階段の陰に身をかくした。すぐさま追っ手が屋敷を訪れ、屋敷内を物色する。階段の前まで来た時、傍にぼうっと浮かぶ青い鳥を見つけると、追っ手はそれを乱暴につかんで屋敷を後にした。
 物陰から出てきた青い鳥は、ほっと安堵のため息をつく。追っ手がさらっていったのは、青い鳥の姿を映した花の方であった。
 今度は青い鳥が屋敷内を物色し始める。そして花をひとつ残らずかき集め、持ち去ってしまった。
 朝になり、おばけは花がなくなっていることに気づいた。
 おばけは声をあげて泣いた。その声は周囲にも届くほど激しく、本当に哀しそうな音色で響いた。おばけ屋敷の噂は広まり、肝試しに訪れる者も中にはいた。しかし訪れる誰もおばけの姿を見ることはもうない。ただ哀しい泣き声だけが聞こえてくる。



コトリの宮殿「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選・自由題部門 優秀賞


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